魚の炊き方(煮魚の作り方)のコツについての考察

煮魚の作り方に関して、
これがコツだと一般的に言われるところは何かといえば

   煮汁が煮立ってから魚を入れる

ということであろう。
その理由は、煮立った煮汁に入れると、
魚の表面がすぐに固まって旨味の流出を防ぐとか、
冷たいままで入れると魚の臭みが煮汁に流出する
等である。
そして、ネットでもこの説明が主流である。

せやけど、あれですな。

はっきりゆわせてもろたら、
僕は「煮魚の煮汁は煮立ててから」というのがコツやとは
全然思ってない。寧ろ懐疑的である。

ところで、僕の最近の愛読料理書『100の素材と日本料理』
(柴田書店)は、素材別に代表的な調理法を詳説した日本
料理の教科書的な本なのだが、その中から煮魚のレシピを
拾い、魚の投入のタイミングを見てみると・・・
(但し、文面上、明らかにタイミングがわかるものだけ)

  あこうの潮椀・・・霜降り後、冷たいまま
  子持ち鮎有馬煮・・・素焼き後、冷たいまま
  子持ち鮎煮浸し・・・素焼き後、冷たいまま
  鰯の梅煮  ・・・煮立ってから
  虎魚の味噌汁・・・霜降り後、煮立ってから
  虎魚の煮付け・・・霜降り後、冷たいまま
  鰹の角煮・・・霜降り後、冷たいまま
  鰹の時雨煮・・・霜降り後、冷たいまま
  鰈の煮付け・・・霜降り後、冷たいまま
  鯒あら煮・・・霜降り後、煮立てて
  ゴリ諸味煮・・・冷たいまま
  船場汁・・・case-by-case
  鯖の味噌煮・・・霜降り後、冷たいまま
  鱸潮汁・・・霜降り後、冷たいまま
  鯛の兜煮・・・霜降り後、煮立てて

ざっと見て、こんな感じ。

冷たいまま、水や酒と魚を合わせて火にかけるのが多い。
そして霜降りが当然の前提となっているようだ。
意外なのは、鯛の兜煮で煮立った煮汁、
ここでは煮きり酒と出汁を合わせてたもの、に入れている点である。
僕が京都や大阪の割烹で見たのは、鍋に霜降り後のアラを並べ、
冷たい状態からスタートする方法。『柴田ブックス 鯛』でも
同様に、霜降りした後で、冷たい状態からスタート。
まぁ、当該図書は関西や関東の複数の料理人の方法をまとめて
掲載しているので、こういうこともあるのかな?と。
つまり、料理も主義主張なのである。
僕の方法は「霜降り後、冷たいまま」に決まってる。
「鯖の味噌煮」についても、他方では、故辻嘉一氏は
『辻留 秋の料理』(婦人画報社)のなかで、煮立ててから魚を
入れるとされる。

他には図書館で見た一例
当代有名料理人の家庭向け料理書(『割合で覚える日本料理』
村田吉弘 著 日本放送出版協会)では、霜降り後、煮汁が冷たい
状態からのスタートを推奨。
他方、家庭向けの様々な「お料理入門」的料理本では、
煮立ってから入れましょうってのが多いように思われる。
例えば故土井勝氏の料理本なんかはそうだ。

他に見た例。

以前見た国営放送のテレビ番組の「合点流」では、
鰈の煮付けを酒を加えた冷たい状態からスタートするのを推奨。
酒に含まれるアルコールは魚肉への浸透性がよく、
それが加熱により蒸発する過程で、魚の生臭みを除くのだと
いう説明だったと記憶する。
つまり、酒を入れて煮立てた煮汁では意味がないとの説明。
尚、カレイは霜降りをしていた模様(←20061118に加筆)

さてさて、こうして見てくると、どうも魚の炊いたんは、
「煮魚のコツは、煮汁を煮立ててから」というのは、
常に通用するコツでもなければ、およそ全ての料理人に支持
される金科玉条でも何でもないようである。

僕としては

「霜降り後、冷たい煮汁からスタート」

というのが原則だと思うのだが、どうか???
だって、それで美味しいんですもん!

家庭では、霜降りするのは手間がかかりますかね???
すいません。僕には理解できない感覚です。

そういえば、ブリのあら炊きを、霜降りも何もしないで
いきなり炊くレシピを見たことがある。市販のレシピ本でだ!
天然ブリの捌きたてというわけではあるまいに。
そのような方法を俺は認めない。
(「認めない」というところ、やはり「主義主張」なのである。)

それから、ブリのあら炊き、ブリ大根のレシピでは、
ブリの鱗を全部取り除けと指示するべきであろう。
そんなもの、包丁ですき引きするだけである。
霜降りの後なら、こすれば綺麗に落ちる。
大した手間ではないし、皮も美味しく食えるのである。
何しろブリの鱗は、気にせず食うにはうるさすぎる。
剥がれた鱗の小片が大根にへばりつくのを見たくない。

料理屋でも小さな鱗には気が回らないこともあるようで・・・
小さな鱗、小骨の一本でも美味しい気分がが台無しと言うことは
あるのだから、料理屋ならば、プロならば、徹底的に気を遣って
もらいたいものだ。そうでなければ、カネを払う値打ちがない。


と、言うわけで、今回、アカムツを炊くのに僕が採った
方法はこれだ!

akamutsu_taitan_01.jpg

ちょっとビジュアル的にはヤバイです。
まるでどこかの磯料理屋の海鮮味噌汁の写真である。
椀の中に生々したキンメがどぼん!!!
気持ち悪い写真ですな。


で、なんしか、
冷たい地にアカムツをジャボンと入れて、
落としぶたして強火で一気に加熱。
煮込まないこと。サラリと仕上げる。

それで臭くもなければ身が固くもなっていない。
冷めた煮汁を飯にかけて食っても生臭くも何ともない。
美味いです。きちんと美味い。

冷たい煮汁に入れてから加熱すると臭くなるというのは、
当該事例においてはウソですな。間違いです。

もっとも、刺身に出来るようなアカムツだからこそ、
このような調理法が可能なのかもしれないが。

要するに、炊く対象魚を見てから、目的の味付け・
仕上がりを想像しつつ、case-by-caseで決めるべき
ことなのだと思われる。そのためには調理者の知識と
経験と技能を向上させていくことが肝要なのであって、
後生大事に「煮立ててから」を続けていては料理上手
にはなれないと僕は確信する。


煮魚の味加減にしては、これは好みが大きく反映される。
僕も妻も、基本的にはサラリと炊きあげたものが好きだ。
味加減は、個々人並びに各家庭が独自に決定すべき事項やな。


それにしても、どうして「煮立ててから」流が広くコツだと
いうことになっているのだろうか?実に興味深い。
やはり、力のある料理書、影響力のある料理研究家の言う
ことが、広く世に広まっていくのであろうか?
そして、それを「あの先生が言ってるんだから」ってことで、
無批判に誰かが誰かに伝えるのはないか?

家庭料理も主義主張であろうから、そういうことはありうる。

そして、僕の主張に影響力はない。


追記(20061117)

『だしの基本と日本料理』(柴田書店編)にみる「金目鯛の煮付け」

鍋に冷たい二番だしをいれ、濃口醤油とみりんで加減し、
霜降りしたキンメを並べ入れて、落としぶたをして炊く。
尚、当該記事の技術指導は田村隆氏。

冷たい煮汁からスタートする実例が増えた。
ますます「煮汁は煮立ててから」という方法への疑問と
この方法が家庭料理へのレシピとしては広まっている
理由に興味がわく。

個人的に一番知りたいのは、冷たい煮汁からスタートする
場合と、煮立てた煮汁からスタートする場合の使い分けである。

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煮付けおもしろいですな

はじめまして、かわにしです。
煮付け・煮魚の主張は大変面白いですね。個人的には霜降り後の冷たい酒・水からのスタート(昆布の差込の場合あり)ですが、煮立っている所に生で投入するのはあんまり感心しませんね。

鰤大根に関しては個人的には「煮付け」というより煮込み料理(骨が食べられるくらい煮込みます)として作っています。家庭料理ムック等に紹介されるのとはまた違う味で美味いですよ。

色々あって面白いです

かわにしたけし様
はじめまして。ようこそいらっしゃいました。
煮魚についてアップして以来、書店や図書館で煮魚のレシピを見て回った結果は、
「みんなばらばら。言ってることはまちまち」でありました。
和食の料理人の説明では、家庭料理向けのものであっても、霜降りの後、
冷たい煮汁でスタートが多いようにみえました。
他方、料理研究家系の家庭料理書では、煮立ってからというものが多く、
その理由は聞き飽きたものばかりであります。中には霜降り後、煮たってからと
いうものもありました。

いや、ほんとに、色々興味深いです。

鰤大根のお話、有り難うございました。
これにも色々あるようで、興味深いです。

ところで、かわにし様は本職の方とお見受けします。
よろしければ、これからも訂正、ツッコミ等ございましたら、コメントをお願いします。
秘技秘伝公開大歓迎!!!

以前の記事にコメントしてすみません。村田さんがテレビで、霜降りした後冷たい煮汁からというのが一番失敗がないと説明していて、それからほとんどその方法でやってました。いつもそれでとても美味しく出来るのですから。今日もその方法でカサゴを煮付けようとしていたら、たまたま台所を覗いた相方(魚屋の息子)が「えーっ、煮立ってない煮汁に入れるなんて初めて見た。ばっかじゃないの~」とのたまいまして、むかついたのなんのって。反論しようにも、「だってテレビで菊乃井の村田さんが…」では論破出来ず。見たのも随分前で、もしかしたら記憶違い?と不安になって検索してみたら、ここを発見。明日、相方に読ませて「ばーか」と言ってやりたいと思います。溜飲が下がるとはこのことですわ。私の母が作る煮魚(煮立てた煮汁に放り込む方式)は生臭くてまずいです。高度経済成長の頃の料理教室が時間短縮の方法として広めたんじゃないでしょうか。霜降りなんてたいした手間じゃないのに。

>demel_chocola さん

美味しそうなお名前ですなね。 僕はザッハトルテが大好きです。


相方殿は納得なされたのでしょうか?
まぁ、プロ向け料理書の説明なので、説得力はあるでしょう。
それに、そもそも相方殿は、その方法による煮魚を美味しくお召し上がりになられていた
のでは?

魚は煮汁が煮立ってから入れるか、冷たいままスタートするかに関しては、僕もずっと
情報収集、というと大げさですが、どのような見解が多いかに関して意識的に見聞して
いますが、やはり和食の料理人の解説では霜降りの後で冷たいままスタートというのが
多いように見受けられます。
最近出版された『日本のおかず』(西健一郎 著 幻冬舎)においても、煮魚は冷たいのを
鍋に入れ、それを火にかけると説明されていました。

それにしても、ネットには「煮魚は煮汁が煮たってから入れる。その訳は・・・」という紋切り
型の説明が多いですね。鵜呑みではあきまへん。無批判・無検証なコピペも。
まぁ、コツというのも主義主張ですから、平行線のままでもいいんですけどね。

ザッハトルテも美味しい♪
私はシンプルな猫舌チョコレートが大好きです。

さて、相方は不満気でありました。
「でも今まで私が作ったのを美味しいって食べてたじゃん」というだめ押しの一言に
「いや~もしかしたら煮立てないで入れてんじゃねーの?って思ってた」
等と嘘八百の負け惜しみを言うので、首を締めてやりました(^^;;)

手持ちの家庭向けレシピ本や女性誌の料理特集ではほとんどが煮立ててから魚投入なんですよね。
あと、味付けも濃いような気がします。
クックパッド等の一般的な家庭のレシピでもカレイの煮付けは
お砂糖や醤油でがっちり濃いめの味付け+煮立ててからが圧倒的に多いようです。
さらに人によっては20~30分煮るみたいな…でっかい佃煮になっちゃいそうな気がしますけど。
それはそれでご飯がすすむ味で、濃い味付けで生臭さがかき消されるから失敗しない方法なのかもしれませんね???

そうですね。

お料理の「入門書」という類のものでは、殆ど全てが
「煮魚のコツは煮汁を煮立ててから」とされており、
その理由も聞き飽きたものばかりですね。

冷たい煮汁でスタートという方法で美味しくできないと
いうのなら、料理屋の煮魚の類は不味い筈。
でも、実際は違います。
必ず霜降りが必要かというと、そうでもないようで、
京味 西健一郎氏の『日本のおかず』では、霜降りも
せずにそのまま冷たい煮汁でスタートしています。
生臭さが気になるなら霜降りせよという指示はありますが。

要するに、煮汁を煮立ててからスタートというのは、
真理でもコツでもないと判断せざるを得ません。
本当に興味深いのは、何故この方法が巷間に遍く
広がっているのか?ということです。


煮魚の味加減は、本当にお好みがありますよね。
我が家ではさらっと炊いたのが常です。
表面に付いた煮汁の味で魚を食べるという感じで、
中まで味をしみこませるということは、殆どありません。

でも、『100の素材と日本料理』には2時間以上かけて
鯖の味噌煮を煮るという方法が紹介されていたので、
これには興味があります。なるほど、鯖の味噌煮は
煮込んだ方が美味いかもしれません。

魚の炊き方(煮魚の作り方)のコツについての考察

いや~面白かったです。いい記事でした。ありがとうございました。

 byブロガー協会の料理当番(料理好き)の勇

>ブロガー協会

どうも、お楽しみいただけたようで。
せやけど、まぁ、自分の過去ログな訳ですが、
ようこんなめんどくさいことやったもんやわ。
ほんま。今はこんなんどうでもええです。
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Author:政
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